鏡の前で白髪を見つけて、抜こうか迷ったことはありませんか。「抜くと増えるらしいから」と結局ピンセットを置く。スーパーでわかめを買いながら「これで少しは髪にいいはず」と自分に言い聞かせる。寝る前に、ふと思い出したように100回ブラシを通してみる。どれも一度は聞いたことのある習慣だと思います。今日はこの3つの噂を、髪の仕組みから確認していきます。
白髪を抜くと増えるという話の本当のところ
まず白髪です。結論から言うと、1本抜いたことが原因で周りの白髪が増えるという医学的な仕組みは存在しません。頭皮には髪を作る「毛包」という小さな器官が約10万個あり、それぞれが独立した血管と細胞のチームで動いています。1つの毛穴から数本生えているように見えても、実は毛包ごとに別のチームです。だからある毛包の白髪を抜いても、隣の毛包の色素を作る細胞にその情報が伝わることはありません。
ではなぜ「抜くと増える」と感じるのか。実際には、白髪が気になり始めて抜くようになる時期と、色素を作る細胞の働きが自然に落ちていく時期がちょうど重なっているだけなのです。抜いたから増えたのではなく、増える時期に抜き始めた、という順番の話です。
とはいえ、抜いていい理由にはなりません。無理に引き抜くと、毛穴の縁の組織が傷つき、そこから菌が入って炎症を起こすことがあります。さらに成長の途中にある髪を強制的に抜くと、その毛包が受けるダメージが積み重なり、同じ場所から生えにくくなったり、次に生える毛がチリチリとうねったりすることもあります。気になる白髪は、根元からハサミで切るか、カラーで色を合わせるほうが頭皮には優しい方法です。
わかめで髪が生えるという話の本当のところ
次にわかめです。わかめや昆布には、ヨウ素や亜鉛といったミネラルが豊富に含まれていて、これらは新陳代謝や細胞分裂を助ける働きを持っています。だから「体にいい」というのは間違いではありません。ただ、髪そのものを新しく生やす効果があるかというと、そこまでの証拠は今のところ見つかっていません。
髪の重さの8〜9割は「ケラチン」というたんぱく質でできています。ケラチンを作るには、シスチンとメチオニンという、髪の強さと弾力のもとになるアミノ酸が欠かせません。これは家を建てるときの材料に似ています。ミネラルが換気や採光の工夫だとすれば、シスチンやメチオニンは柱そのものです。柱が足りなければ、どれだけ換気を工夫しても家は建ちません。そしてこの柱にあたる成分は、わかめにはほとんど含まれておらず、肉や魚、卵、大豆といったたんぱく質源に多く含まれています。海藻だけを頑張って食べても、材料そのものが不足していれば髪は育たないということです。
100回ブラッシングという話の本当のところ
最後にブラッシングです。「寝る前に100回ブラシを通すと髪がきれいになる」という習慣は、19世紀、シャンプーがまだ一般的でなかった時代の名残りです。当時は月に1回程度しか洗髪できず、頭皮の油分を毛先まで手で分配するために、獣毛のブラシで長時間とかしていました。皮脂を髪全体に行き渡らせる、当時なりの合理的な方法だったのです。
けれど今は状況が違います。毎日シャンプーで油分や汚れを洗い流し、トリートメントで補っている髪に、同じ回数のブラッシングをすると摩擦が過剰になります。髪の表面は「キューティクル」という薄い層が何枚も重なって内部を守っていますが、摩擦を加え続けるとある回数を境に急に剥がれやすくなることが分かっています。試験の数値では、ナイロン製のブラシでは約1000回、比較的優しいとされる獣毛ブラシでも数千回で表面に損傷が確認されています。1日100回を1か月続けると3000回に達する計算になり、思っている以上に早くその境界に近づいてしまうのです。とくに洗い流した直後の濡れた髪は水分を含んで内部が緩んでいるため、同じ力でも傷つきやすくなっています。
自宅でできること
白髪は抜かずに根元からカットする。これだけで頭皮への負担はかなり減ります。食事はわかめや昆布を「悪者」にせず、肉・魚・卵・大豆といったたんぱく質を土台に置いて、海藻はミネラルを補う脇役として取り入れる形が現実的です。ブラッシングは回数を目的にせず、絡まりをほどく手段として捉え直してみてください。お風呂に入る前に、毛先から少しずつとかして表面のほこりを軽く落とす程度で十分です。乾いた髪でも、力を入れずに毛先から根元へと逆算するようにとかすと、摩擦を最小限に抑えられます。
サロンでできること
こうした噂に共通しているのは、間違った方法を続けることで、頭皮や髪に見えないストレスが積み重なっていく点です。判断の軸になるのは、その方法が「今の自分の髪の状態」に合っているかどうかです。バンコクの水質や乾燥した室内環境も重なると、蓄積したダメージはさらに気づきにくくなります。私たちのサロンでは、頭皮に残った金属分やミネラル、古いコーティングを取り除きながら血行を促すヘッドスパで、まず今の髪と頭皮の状態を確認するところから始めます。何を続け、何をやめるべきかは、その方の髪質や生活習慣によって変わるので、一律の答えを出すのではなく、実際の状態を見ながら一緒に整理していく形をとっています。
髪の噂との付き合い方
お客様からよく聞くのが、「昔からそう言われてきたから」という言葉です。それ自体は悪いことではありません。ただ、その習慣が生まれた背景と、今の髪や生活環境が同じかどうかは、一度確認してみる価値があります。私たちが日々見ているのは、正しい情報よりも先に、正しい前提を持てているかどうかで髪の状態が変わっていく現場です。
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