朝、鏡の前でブラシを通す。根元はスッと通るのに、毛先で急に引っかかる。シャワーの後、ある部分はすぐ乾くのに、ある部分はいつまでもトロトロと湿っている。乾き切った頃には、髪全体がうねってボサボサに膨らんでいる。半年前に入れたハイライトが、なんだかもう別の髪みたいに感じていませんか。
「色が抜けてプリンになったから、また上から染めれば戻るはず」。そう思うのは自然なことです。でも、今あなたの髪の中で起きているのは、単なる色落ちではありません。1本の髪束の中に、強さも性質も全く違う2種類の毛が同居している状態です。これを理解しないと、いくら高いトリートメントを使っても、質感のバラつきは解決しません。
なぜ根元と毛先でこんなに違うのか
ハイライトを入れた髪には、薬剤の影響を受けていない「地毛部分」と、ブリーチで脱色された「ハイライト部分」が混ざっています。この2つは、半年という時間の中で全く違う経過をたどります。
地毛部分は、髪の表面を覆ううろこ状の層(キューティクル)が整った状態を保っています。この層が屋根のように内部を守っているので、弾力も強度もそのままです。
一方でハイライト部分は、施術のときに強いアルカリ剤でこの屋根がこじ開けられ、そこから過酸化水素が中に入り込んで、色素だけでなく髪の中身のタンパク質まで分解してしまいます。半年間、シャンプーや紫外線、摩擦にさらされ続けるうちに、開いたままの屋根はどんどん剥がれ落ち、中身は空洞だらけになっていきます。硬くて詰まった柱のような地毛と、中身がスカスカのスポンジのようなハイライト部分。この2つが隣同士で存在しているのが、今のあなたの髪です。
この違いが一番わかりやすく出るのが、水分の出入りです。地毛は水を適度に弾く性質を保っているので、洗っても乾かしても均一な速さで変化します。ところが空洞だらけになったハイライト部分は、水を異常に吸い込む性質に変わっています。洗うと水がどんどん染み込んでゴムのようにテロテロになり、ドライヤーを当てても中の水分がなかなか抜けません。そして完全に乾き切ると、今度は逆に、空気中のわずかな水分すら保てず一気にパサつきます。同じ髪の中で乾燥の速度がまるで違うので、地毛はストンと落ち、ハイライト部分だけがチリチリに広がる。これが「まとまらない」正体です。
多くの方の髪の状態を見せていただくと分かるのは、渡航から1年以内のお客様と、3年を超えたお客様とで、この空洞化の進み方が全く違うという事実です。渡航して間もない方は、日本で入れたハイライトがまだ屋根の壊れ始めの段階で来店されることが多く、質感差はそれほど目立ちません。一方でバンコクに3年以上住み、強い紫外線とエアコンの乾燥に髪をさらし続けてきた方は、同じ半年でも空洞化が一段深く進んでおり、触った瞬間の質感の差がはっきりわかります。環境が同じでも、髪がその環境にさらされてきた年数によって、半年後の状態は大きく変わるのです。
黄ばみにも理由があります。髪の黒っぽさを作る色素には、黒褐色のものと、黄赤色のものの2種類があります。ブリーチの薬剤は黒っぽい色素から先に壊していくため、黄赤色の色素だけがしぶとく髪に残ります。施術直後は、この残った黄色を打ち消すために青や紫の色を上から重ねているので、透明感のあるベージュに見えていました。でも、屋根がなくなったハイライト部分では、この色素も少しずつ流れ出てしまいます。覆われていた黄色が表に出てくる、それが半年後の黄ばみです。しかも、むき出しになった黄色い色素は、日々の紫外線や熱にさらされ続けることで、より強く不快な色に変わっていきます。根元の黒い新生毛、中間の中途半端なトーン、毛先の黄ばんだ部分。この3層が混ざり合うことで、かつての美しい筋感やコントラストが崩れ、質感がまとまらない髪に見えてしまうのです。
自宅でできること
見た目の黄ばみを一時的に抑えたいときは、紫色素で黄色味を打ち消す仕組みを持つ製品を使うケースがあります。色の輪(色相環)で黄色の反対側にあるのが紫で、この2つを混ぜると互いの色味が打ち消し合い、無彩色に近づきます。この色素をハイライト部分の表面にのせることで、黄色が目立ちにくくなるという仕組みです。
ただし、これはあくまで表面に色をのせているだけで、髪の中身を修復するものではありません。空洞化したハイライト部分は色を留めておく力が弱いので、数回洗うと流れてしまいます。継続して使うことで見た目を保つ、そういう付き合い方が現実的です。
もうひとつ大事なのが、水分の出入りを穏やかにするケアです。洗ったあとの濡れた髪は、屋根が開いて水を含みやすい状態になっています。ここにヘアオイルやヘアミルクを塗り込むと、表面に薄い膜ができて、水分が急に蒸発するのを防いでくれます。特にハイライト部分を中心に揉み込むことで、地毛との乾く速さの差が縮まり、うねりや広がりが穏やかになります。
サロンでできること
半年経って、根元は健康な地毛、中間は退色し始めた髪、毛先は空洞化したハイライトという状態になった髪に、全体を同じ薬剤で一気に染め直す方法は向いていません。健康な地毛は色が入りにくく、逆に空洞化した毛先は色を吸い込みすぎて、思っていたのと違うトーンに沈んでしまうことがあるからです。
大切なのは、色を足すことではなく、髪の状態を見極めて、部分ごとに合った強さの薬剤を選べるかどうかです。強い薬剤を一律に使うと、すでに限界が近い毛先にさらに負担がかかってしまいます。neve では、髪の中に混在する2種類の毛の比率や空洞化の深刻さを見た上で、根元と毛先で必要な処置を分けて考えます。同じ「ハイライトを入れて半年」でも、渡航歴が浅いお客様と長いお客様とでは選ぶ強さがまるで違い、一律の対応では合わないケースがほとんどです。
おわりに
お客様からよく聞くのが、「半年前はきれいだったのに、なんでこんなに変わってしまったんだろう」という戸惑いです。でも実際に髪を見ると、それは手入れが足りなかったからではなく、2種類の毛が同居する構造上、時間が経てば起きる変化だったというケースがほとんどです。
neve が現場で繰り返し確認してきた事実は、ハイライトの半年後の質感差は、色落ちの問題ではなく、地毛とハイライト部分の水分保持力の差から生まれているということです。この違いを踏まえて次のケアを選ぶかどうかで、1年後の髪の状態は変わってきます。
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