バンコクで洗っているのに頭皮がベタつく、本当の理由

バンコクでの生活にも1年ほど慣れてきた頃、夜シャワーで丁寧に洗ったはずなのに、翌日の昼にはもう髪の根元がベタつき始めていることに気づきます。エアコンの効いたオフィスにいるのに、頭皮の奥がなんとなくむずむずする。夕方になると自分の頭のにおいが気になって、後ろに立つ人との距離を無意識に測ってしまう——日本にいたときと同じシャンプーを、同じように使っているだけなのに、何かが違う。そんな感覚に心当たりはないでしょうか。

洗うたびに落としているのは「汚れ」だけではない

このとき私たちはたいてい「洗い方が甘いのかもしれない」「もっとしっかり洗おう」と考えます。しかし実際に頭皮で起きていることは、その逆かもしれません。

頭皮の表面には、皮脂腺から出る皮脂と、汗腺から出る汗、そして肌の表面の細胞から生まれる保湿成分が混ざり合ってできる、ごく薄い膜があります。これを「皮脂フィルム」と呼びます。本来、油と水は混ざり合わないものですが、体はこれを肌の上で絶妙に乳化させて一枚の膜に仕上げています。ちょうど卵黄が油と酢を結びつけてマヨネーズを作るように、皮脂フィルムも本来交わらないもの同士を一つにまとめ、頭皮を乾燥や刺激から守っているのです。

この膜には、もう一つ重要な役割があります。健康な頭皮の膜は弱酸性に保たれていて、この酸性の環境が、トラブルの原因になりやすい菌の増殖を抑え、肌を整える働きをする菌の居心地を良くしています。膜が弱酸性であること自体が、頭皮を守るバリアとして機能しているわけです。

さらに、汗の中には天然の抗菌成分が含まれていることも分かってきています。私たちが「汚れ」と思って毎日せっせと洗い流しているものの中に、実は頭皮を細菌や刺激から守る成分が含まれている——これは知っておいて損のない事実です。

では、なぜ「毎日しっかり洗う」ことが裏目に出るのでしょうか。シャンプーに含まれる洗浄成分は、油分の汚れとなじんで洗い流す働きをしますが、洗浄力が強いものを頭皮に使いすぎると、この皮脂フィルムだけでなく、肌の内側で水分を抱え込んでいる成分まで一緒に洗い流してしまいます。この成分が減ると、肌の内部から水分がどんどん外へ逃げていき、頭皮は乾燥した状態になります。乾燥した頭皮は外部の刺激に敏感になり、かゆみや炎症が起きやすくなるうえ、弱酸性の環境が崩れることでにおいの原因になる菌も増えやすくなります。つまり、洗いすぎることで頭皮を守るはずの膜そのものが壊れ、かえってトラブルを引き起こしてしまうのです。

ちなみに、「髪は毎日洗うもの」という感覚は、実はそれほど古い習慣ではありません。日本でも内風呂が一般家庭に普及した1970年代以降に洗髪の頻度が増え、1980年代後半のあるブームをきっかけに「毎日洗うのが身だしなみ」という感覚が定着したと言われています。今の私たちが当たり前だと思っている習慣は、生活環境の変化と時代の空気が作り上げたものであって、頭皮そのものが求めている頻度とは、必ずしも一致していないのです。

洗う頻度より、洗い方を見直す

とはいえ、いきなり洗髪の回数を減らすのは、汗をかきやすいバンコクの気候では現実的ではありません。おすすめしたいのは「回数を減らす」ことより先に「洗い方」を見直すことです。

シャンプー剤を使わず、お湯だけで頭皮をすすぐ日を作ってみましょう。汗や水に溶ける汚れの多くは、これだけでもかなり落とせます。皮脂フィルムを守りながら清潔さも保てる、無理のない方法です。

頭皮の状態によっても考え方は変わります。洗ったあとに頭皮がつっぱる、かゆみが出やすい方は、すでに膜が弱っているサインです。シャンプー剤を使う日を2〜3日に1回にして、それ以外はお湯だけで洗うくらいがちょうどよいことが多いです。逆に翌朝にはもうベタつきが出る方は、皮脂の分泌自体は元気な状態なので毎日洗うこと自体は問題ではありません。ただし洗浄力の強すぎる製品でゴシゴシ洗うと、必要な皮脂まで奪ってしまうため、優しい洗浄成分のものを選び、力を入れすぎずに洗うことを意識してみてください。

バンコクの水と頭皮、判断軸をどこに置くか

バンコクの水道水は日本の水よりミネラル分を多く含んでいて、これが頭皮や髪の表面に少しずつ蓄積していきます。乾季のほこりや強いエアコンの乾燥も重なると、自宅でのケアだけでは追いつかないと感じる方も少なくありません。

こうした環境で私たちが大切にしているのは、「今の頭皮に何が足りていて、何が過剰なのか」を見極める視点です。ミネラルや古い皮脂の蓄積が気になる方には、頭皮に負担をかけずに余分なものだけを取り除き、血行を促す頭皮の専用ケアという選択肢があります。ただし、これも誰にでも同じように必要というわけではありません。頭皮が乾燥気味なのか、皮脂が過剰なのか、蓄積が多いのかによって、必要なケアの強さもタイミングも変わってきます。答えを一律に決めつけるのではなく、今の自分の頭皮に合っているかどうかを見極めることが、遠回りに見えて一番の近道です。

おわりに

お客様からよく聞くのが、「日本にいたときと同じことをしているのに調子が違う」という戸惑いです。話を聞いていくと、多くの場合、原因は洗い方そのものより、頭皮を見る視点が変わっていないことにあります。皮脂を敵として洗い落とす発想から、頭皮を守る一部として付き合っていく発想へ。その切り替えができた方から、少しずつ頭皮の調子が落ち着いていくのを、私たちは繰り返し見てきました。

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