施術から2週間。鏡の前で「あれ、もうこんな感じ?」と声が出た朝はありませんか。
丁寧に巻いてもらったはずのカールが、毛先だけへたっている。水で濡らしてもスタイリング剤を揉み込んでも、あの日のリッジは戻ってきません。日本にいた頃は数ヶ月持っていたパーマが、バンコクに来てからは驚くほど早く取れる。私たちはこの相談を、駐在で数年を過ごす女性たちから何度も聞いてきました。
これは、スタイリングの腕前や薬剤のグレードの問題ではありません。髪の内部で起きている「結び直し」の精度が関係しています。
パーマは髪の内部の「結び目」を、一度ほどいて結び直す作業です
パーマは髪を物理的に曲げる施術のように見えますが、実際は髪の内部で起きている化学反応そのものです。髪の中には、形と強さを保つための一番強い「結びつき」があります。これはタンパク質同士を橋のようにつなぐ結合で、水に濡れても簡単には切れません。この結びつきのおかげで、髪は普段の形を記憶しています。
パーマの1剤に使われる還元剤は、この結びつきに働きかけて一度ほどく薬剤です。薬剤が髪の内部まで届くと、開いた結びつきがバラバラの状態になります。このとき同時に、1剤に含まれるアルカリの力で髪の表面(キューティクル)が開き、髪自体もふっくらと膨らんだ状態になります。この膨らみがあることで、薬剤が奥まで通り、結びつきがしっかりほどけるのです。ロッドに巻かれた髪は、この「ほどけた状態」だからこそ、新しい形に柔らかく変形できます。
ここからが、パーマの持ちを決める本番です。新しい形を作ったあと、2剤の酸化剤を塗布します。酸化剤は、ほどかれた結びつきを、新しい位置で再びくっつける役割を持っています。この結び直しが隙間なく正確に行われれば、理論上パーマはほぼ半永久的に取れません。ですが実際の髪の中では、この結び直しが完璧に進むことは滅多にありません。
結び直しの精度が落ちる理由は大きく二つあります。ひとつは、結びつきが本来のペアとは違う相手と、ずれた位置でつながってしまうこと。髪をロッドに巻いた時点で、ほどかれた結びつきの相手は元の位置から離れてしまいます。酸化剤が塗られたとき、隣り合った別の結びつきと無理につながることで、全体にひずみが生まれ、カールを支える力が弱くなります。
もうひとつは、そもそも相手が見つからず「つながらないまま」髪の中に取り残されるケースです。ほどかれた結びつきの一部が、薬剤自体の成分と先にくっついてしまうことがあり、これを専門的にはミックスジスルフィドと呼びます。この状態になった部分は、2剤をどれだけ塗っても本来の相手とはつながれません。結果として、その場所は髪の内部に空洞のようなすき間として残ってしまいます。バネの力を失ったマットレスのように、そこだけ弾力がなく、日々のシャンプーの刺激だけでカールが崩れていくのです。
もう一つ意外なのが、この結び直しの精度に「水分」と「熱」が深く関わっている点です。デジタルパーマで熱を使うのは、単に形をしっかりつけるためだけではありません。熱によって髪の中の水分が減ると、結びつき以外の余計な干渉が減り、結び直しがしやすい位置に定まりやすくなると考えられています。つまり髪の中の水分量そのものが、結び直しの正確さを左右する重要な条件なのです。
そしてこの水分こそが、バンコクでパーマが取れやすい最大の理由です。常に湿度が高いバンコクでは、髪が空気中の水分を吸い込みやすく、内部が水分過多の状態に傾きます。水分が多すぎると、2剤の酸化反応が髪の浅い部分でしか進まず、奥までしっかり結び直されません。同じ美容師が同じ薬剤を使っても、日本とバンコクでパーマの持ちが変わってくるのは、この環境差が結び直しの深さに直接影響しているからなのです。
バンコクの美容室選びで見落とされがちな視点
在住1年以内のお客様と、3年を超えたお客様では、同じ「パーマがすぐ取れる」という相談でも中身が違います。渡航して間もない方は「日本と同じ薬剤のはずなのに、なぜ」と戸惑うことが多く、長く住んだ方は「前より髪が水分を含みやすくなった気がする」と、自分の髪そのものの変化を語ることが増えます。この違いは、髪が湿度の高い環境に少しずつ馴染んでいくプロセスを映しています。
バンコクのパーマ美容室を選ぶ際に見落とされがちなのは、薬剤のブランドや価格帯よりも、髪の水分状態を見極める工程があるかどうかです。乾燥して空洞が多い髪と、バンコクの湿気で膨らみすぎている髪では、必要な薬剤の濃度も、酸化のタイミングも変わってきます。同じ薬剤を一律に使う店では、髪の状態に薬剤が合わず、結び直しの精度がさらに下がってしまうこともあります。
施術後48時間の過ごし方と、髪に残るアルカリの話
施術直後、髪の中の結び直しはまだ完全には終わっていません。新しい結びつきのネットワークが落ち着くまでには、24時間から48時間ほどかかるといわれています。この期間に髪を強く濡らしたまま放置したり、ゴムで強く結んだり、クシで無理に引っ張ったりすると、まだ不安定な結びつきの位置が再びずれてしまいます。当日はできるだけシャンプーを控え、濡れてしまった場合はタオルで擦らず、カールを手のひらで包み込むようにして乾かしましょう。
もう一つ関わってくるのが、髪に残る薬剤成分です。パーマの1剤はアルカリ性なので、施術後の髪には微量のアルカリ成分が残りがちです。健康な髪は本来、弱酸性のときにタンパク質の結びつきが安定し、キューティクルもきれいに閉じています。アルカリが残った状態が続くと、キューティクルが開きっぱなしになり、シャワーのたびに内部の水分やタンパク質が流れ出て、結び直した部分の空洞を広げてしまいます。この残留アルカリをどこまで施術の中で取り除けるかが、数ヶ月後のカールの持ちに影響してきます。
サロンでできること:髪の水分状態を見極めるカウンセリング
パーマの持ちを左右するのは、薬剤の強さそのものではなく、その髪が今どれくらい水分を含んでいるかです。大切な判断軸は、髪の水分状態に合わせて薬剤や工程を調整できるかどうかです。neve では施術前のカウンセリングで、髪質やダメージの履歴、日々の過ごし方を伺いながら、その髪に合った還元と酸化のバランスを見極めています。
加えて、施術後に残留する薬剤成分を専用処理で除去する工程も欠かせません。1剤・2剤ともに髪の内部に薬剤が残ったままだと、アルカリが弱酸性に戻るまで時間がかかり、その間にキューティクルの開いた状態が続いてしまいます。薬剤の力に髪を合わせるのではなく、髪の状態に薬剤を合わせ、仕上げに薬剤の負荷を残さないところまで整える。その順番が、数ヶ月先のカールの持ちにつながります。
結び直しの精度が、数ヶ月先の鏡を変える
お客様からよく聞くのが「前は数ヶ月持ったのに、なぜ今は2週間で取れるのか分からない」という声です。答えはいつも、湿気の多さそのものではなく、その湿気が髪の中の結び直しにどう影響しているかにありました。カールが早く取れるのは、あなたの手入れが足りないからではなく、髪の内部で起きている化学反応の結果です。
neve が現場で繰り返し確認してきた事実は、パーマの持ちを決めるのは薬剤の強さではなく、その時々の髪の水分状態を見極める工程があるかどうかだということです。
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