「わかめを食べれば白髪が減る」は本当なのか、髪の色の仕組みから考える

バンコクのスーパーで乾燥わかめを見つけて、思わずカゴに入れたことはありませんか。夜、鏡の前で分け目を確認して、キラリと光る一本を見つけたときの、あの小さなため息。「タイに来てから増えた気がする」と思いながら、子供の頃に祖母から聞いた「わかめを食べなさい」という言葉をふと思い出す。そんな経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。

わかめを食べれば黒髪に戻るのか。結論から言うと、その根拠はありません。ただ、この話を掘り下げていくと、白髪について本当に知っておくべき事実が見えてきます。

髪の色を作る「工場」と、その動かし方

髪は生まれた瞬間、実は色がありません。毛根の奥で作られたばかりの髪は無色透明で、そこに色をつけているのは「メラノサイト」という小さな色素細胞です。この細胞を、髪の色を作る小さな工場だとイメージしてみてください。工場では「チロシン」というアミノ酸を原料に、黒っぽい色素(メラニン)を作っています。

ただし、原料があるだけでは色は生まれません。この工場のラインを動かすには、専用のスイッチ役の酵素「チロシナーゼ」が必要です。そしてこのチロシナーゼが働くためには、中心部に「銅イオン」という金属がぴったりとはまり込んでいる必要があります。銅がなければ、原料のチロシンがどれだけ揃っていても、スイッチは入らないままです。つまり、髪を黒くするには「原料(チロシン)」と「スイッチを起動させる金属(銅)」の両方が揃って初めて、色素という製品が完成するのです。

ここで一つ、意外な事実があります。わかめのヌメリ成分として知られる「フコイダン」は、近年の研究でメラニンの生成を抑える働きが報告されているのです。フコイダンは、工場に「メラニンを作れ」と指示を出す司令塔の働きを弱めることで、チロシナーゼそのものの量を減らしてしまいます。これは美容の世界では「美白成分」として注目されている性質で、色素を増やす方向どころか、むしろ逆向きに働く可能性すら示されています。黒髪を目指してわかめを食べても、メカニズムの上では期待した効果とは逆のベクトルが働いているというのは、少し皮肉な話です。

とはいえ、食べた銅がすぐ髪に届くわけでもありません。食事で摂った銅は、腸で吸収され、血液中でタンパク質と結合して全身を巡り、頭皮の毛細血管から毛乳頭を経て、ようやくメラノサイトに届きます。この吸収率は3〜4割程度とされ、しかも亜鉛や鉄を摂りすぎると銅の吸収が邪魔されることも分かっています。つまり銅は「摂ればすぐ効く」栄養素ではなく、いくつもの関門をくぐり抜けて、ようやく工場のスイッチに辿り着く成分なのです。

一方で、栄養不足が白髪を進めることは、はっきりとした事実です。ビタミンB12が欠乏している人を対象にした研究では、50歳になる前に白髪化した割合が約55%にのぼり、健康な人の約30%と比べて明確に高い数値が出ています。銅や鉄が不足している人ほど白髪が早く進むという報告も複数あります。わかめを食べても黒髪には戻りませんが、栄養が足りていない状態を放置すると、白髪の進行を後押ししてしまうのです。

バンコクの食生活で見落としやすいもの

バンコクでの外食は、多糖・多油・多塩になりやすく、生野菜を避ける方も多いため、良質なタンパク質やビタミンB群、ミネラルが不足しがちです。自宅でできることとして意識したいのは、銅を含むレバーやカシューナッツ、ピュアココア、チロシンを含む豆腐や納豆、かつお節、そしてビタミンB12を含む魚介類や卵です。スーパーで手に入る鶏肉や豆腐、卵を組み合わせるだけでも、色素工場の材料と燃料を補うことができます。極端な糖質制限やタンパク質不足のダイエットをしている方は、特にB12不足に気をつけたいところです。特定の一品を集中して食べるより、原料・触媒・エネルギーの3つをバランスよく揃えることが、遠回りに見えて確実な方法です。

頭皮の状態が、届いた栄養の行き先を左右する

どれだけ食事から銅やビタミンを摂っても、それが頭皮の血流に乗ってメラノサイトまで運ばれなければ意味がありません。硬くなった頭皮や滞った血流は、栄養が届く経路そのものを狭めてしまいます。

私たちがお客様の頭皮に触れていて感じるのは、頭皮の柔らかさと血流の巡りには個人差が大きいということです。頭皮の専用ケアのようなケアは、リラックスのためだけでなく、頭皮に溜まった古い皮脂や汚れを取り除き、血行を促すことで、せっかく摂った栄養素が届きやすい状態を作る目的もあります。ただ、白髪の進み方や頭皮の状態は一人ひとり違うため、何から始めるべきかは実際の髪と頭皮を見てから判断する部分が大きいと感じています。

食卓の記憶と、今の髪と

わかめの味噌汁を勧めてくれた祖母の言葉には、根拠はなかったかもしれません。それでも、栄養が髪を作るという考え方そのものは、間違っていなかったのだと思います。お客様からよく聞くのが「何を食べればいいか分からないまま、とりあえず海藻を食べていた」という声です。大切なのは特定の食品にすがることではなく、色素工場を動かす材料が今の食生活で足りているかを、一度立ち止まって見直すことなのかもしれません。

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